高野和明『幽霊人名救助隊』

高野和明さんといえばまずは江戸川乱歩賞受賞作の『13階段』。これは「冤罪テーマ」と同時に「時間制限」サスペンスとしても完成しているのにずいぶん驚いた記憶がある。テーマの完成度を惜しむあまり、スピード感がエンターテインメントから離れていってしまうことってよくあることだから。んで『グレイヴディッガー』では「時間制限」要素をさらにシビアにして吹っ飛ばしている。
それで、『幽霊人命救助隊』だ。

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

自殺した4人の男女が神様から「おまいら、これから地上に戻って自殺志願者を100人救ったら天国に行かしてやる」と言われ、地上にたたき落とされて「〜バスターズ」っぽいユニフォームを与えられて(でも人には見えない)頑張るという物語。この物語の眼目は、彼らが救おうとしている自殺志願者たちが、どういう人間でどういう生活でそれがどういう経緯で死にたくなってしまったのかを明らかにすることにある。お金がないとか友達がいなとか仕事がうまくいかないとか恋に破れたといった「現代の諸相」を一番下の気持ちから映し出すのだ。
最初のうちは妙な時間配分に読書がうまく乗れなかったんだけど、救助隊が2人3人と助け出していくうちにすっかりはまってしまったよ。このある種「時間無制限」サスペンスに。あ、もちろんいつまでに100人助けろよという「制限」はあるんだけど(100人目のサスペンスになってる)、それよりも自殺志願者たちの時間軸が語られるから。気がつくと、うれしいんだかかなしいんだか微妙なところで泣いている。