貫井徳郎『夜想』

夜想

夜想

読者に重く現実的なテーマをぶつける。そのテーマがストレートじゃなく譬えると分身魔球のようで、だから読者はけっこういろんな面からこの作品を受け止めるのだと思う。「神/宗教」とか「パーソナリティの故障」とかそれこそもちろん「恋愛」や「暴力」や「狂気」だとか。それを、あまり「仕掛け」にこだわらずに作り込んでいったのが、とてもうまくいっているように思えた。
個人的には最後のシーン、あと5頁くらい読みたかった。……ああいう設定に弱いのよ。
それにしても貫井さんは安定した文章描写力でどんなテーマも見事に物語にしてしまう。去年のベストクラス『空白の叫び』にしても。
この本のコピーを見て、もうすこし『神のふたつの貌』的なところを想像したりとか、やっぱりコピーに『慟哭』ともあったから──的な展開かと身構えたりもしたのだが、読み始めたらすっかりそんなことも忘れて物語の虜になっていたよ。さあ、みんなで読もう。そして考え込もう。