北森さんのこと

北森さんがまだ川崎にいたころ、ふたりで飲みに行ったことがある。もう、ずいぶん前のこと。夏の夕方。
まだ外は明るかったけど目に付いた居酒屋に入って早速ビール。
編プロの編集者時代の話をしつつ、「だからいまだに仕事を断れなくて」と笑ってビールをぐびぐび。
「腰が痛くてさー」と言いながらまたぐびぐび。「霧舎巧をよろしく」と言ってはぐびぐび。
しまいには「原書房、好きですっ」ってコクられ(笑)。

「じゃあ早く書いてくださいよー長編」
「へ? あいたたたた」

と唐突に腰を押さえて。結局終電近くまで飲んでいた。

編プロとか小さな版元の状況をよくわかってらっしゃった方で、だから、もっともっと時間が欲しかったんだろうなあと、しみじみと思う。


骨董もの、っていうジャンルがあるのかは別にして、『狐罠』などの一連のシリーズは読み応えじゅうぶんで、たとえば黒川博行さんの「美術系」と読み比べても面白い。

狐罠 (講談社文庫)

狐罠 (講談社文庫)

ほかにもたくさん。
蓮丈那智シリーズはいわゆる民俗ものなのにスリリングだし、
凶笑面 蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)

凶笑面 蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)

歴史もの『蜻蛉始末』は歴史小説のベテランのような堂々たる書きっぷり。
蜻蛉始末 (文春文庫)

蜻蛉始末 (文春文庫)

こうして思い返すと、物語に血肉となる世界観をきっちりと勉強して取材して体得して描いていたことがよくわかる。ひとえにいちず。

ご冥福をお祈りいたします。